あまりに値段が安いので、「あの値段で儲けがでるのか?」と聞いた。
彼は「食材は普通のものだから、後は手間だけだよ。ちゃんと儲けは出るよ。それよりまず食べてもらいから。」という回答だった。
「食材は普通」という意味は、高額な食材ではない、という意味だ。
普通の家庭で使う鶏肉や豚肉、そしてトマトやニンジンなど普通の野菜をメインに使っているのに、その一皿は一口目から言葉を失うほど美味しい。
そんなコースランチを食べた時に思ったことを書いたのがこれ。
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2019年2月25日
仲間と一緒に映画を見た後、オランジュのコースランチを食べに行った。
どこのフレンチレストランでもそうだけれど、ランチはかなりお得だ。
フルコースがディナーの半分程度で食べることができる。
じゃあ、何が違うのか。
使う食材が違うのは間違いない。
昔、ある雑誌記事で「ランチを食べに行って、シェフの技術を味わいディナーに行くべきかを判断する」ということを読んだことがある。
当時は若かったので、都会の本格フレンチなんて値段の関係上、ランチだって敷居が十分高かったが、その通りだと思った。
シェフのコースランチを食べると、この記事のことを思い出す。
コース料理は、私達でも使うような食材作られているが、技術の粋が詰まっている。
今回も、最初のアミューズを食べた時、初めて食べた仲間の一人は言葉が無かった。
別の若い仲間がこれを3年前に初めて食べた時、それまでの人生において味わったことのないこの一品に「これが大人の味なんだ」と思ったとのこと。
たしかに「美味しい」と一言では表現できない料理であることは間違いない。
メイン食材は、ニンジンとトマトだ。
次に出てくるテリーヌだって同じようなもの。美味しさはもちろんだけれど、その断面の美しさもしばし見とれてしまう。
今回は春を感じる「ふきのとう」のソースが使われていた。
本当に後味に少しだけ感じられる程度だが、シェフ独特のものだ。
そんな調子で、デザートまでゆけば春の食材である「イチゴ」のシャーベットとブラマンジェが出てきた。もちろん、ソースがかかっているから、この一皿でいくつもの味が楽しめる。
コース料理の楽しみは、味だけじゃない。バランスと一連性だ。
コースを通して「春」が演出されている。
外は真冬日でも季節を先取りしている。食べるだけでウキウキしてくる。
食が細い一人は「パンがもっと食べたかったけど料理が次から次へ出てくるから無理だった。それでもデザートはかなり厳しかった」とのこと。
ここのコースは、量は少なめに、と言えば一皿の量を少なくしてくれる。
人それぞれ食べられる量が違うけれど、過ぎたるは及ばざる如し。
自分の食欲はこの意味を学んでくれそうもないけど・・・。
シェフのコースを食べる時、いつも思うのがオーケストラだった。一貫したハーモニーをコース全体に感じた。
アミューズからデザートまで、素材を通して演奏される音楽のようだった。
「食事」は「餌」とは違う。動物は腹を満たすだけで満足するが、人はそれだけでは足りない。どの時代、どの文化においても料理は味以外の要素が占める割合が多い。だからこそ、食事は人生においても重要な要素なのであろう。
でも、人が、工場生産される安い「餌」で満足するなら、それを食べ続けるなら、そこからどんな「文化」が生まれるのだろうか。
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