シェフとマダム、一緒に働く人達にも優しかった。
必ずしも、それが報われるという訳ではない。でも、この時一緒に食べた若い女性は、就職した後も、パーティ等のヘルプで手伝いに来ていた。
若い大学生を、信頼できるウエイトレスに育てたのはシェフ達だ。彼女はそれに心から感謝していた。2度目の鹿は、そんな彼女と並んで食べた。
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2019年2月10日
前回のディナー、鹿が鴨になっても十二分に堪能したが、やはり鹿が味わいたい。だから、ドタキャンの友人とリベンジの計画をした。
彼女の予定に合わせてコースディナーを予約した5分後、彼女からショートメールが来た。
「インフルエンザになりました。家でしばらく引きこもります。」とのこと。
もう待てない。昨夜は、鹿肉の夢まで見た。
友人にはキャンセルしたことを連絡して、予約の日、一人で鹿を食べに行くことにした。
今回はどうしても赤ワインと一緒に食べたかったので歩いて店まで行った。歩いたことで、余分なカロリー摂取への罪悪感も減ったし、食べる準備は万端だ。
店に着いたら、カウンターにはもう一人、若い女性が飲んでいる。昔ここで何年かアルバイトをしていた方だそうな。シェフは「娘みたいなもんだ」と紹介してくれた。
オランジュでのアルバイトだ。若くたって口が肥えるにきまっている。まかないでどれだけ美味しいものを食べていたのは簡単に想像できる。ましてやシェフが「身内みたい」というほどだ。
美味しい物は分け合う。
それがシェフのモットーだからその恩恵は想像するより凄いと思う。
彼女曰く「ほとんど外食しなくなった」とのこと。
そりゃあそうだろう。ここの料理が外食するときの基準になってしまえば、どの店に食べに行っても絶望するしかない。
そんな彼女も私と同じく鹿を食べるらしい。二人でカウンターに並んでお喋りしながら待っていたら、アミューズが出てきた。
この絶品ムースを味わうだけで、ここに来たかいがあると思わされるものだ。
ニンジンとトマトの甘さは季節によって異なる。だから、いつも同じ味にはならない。
当然、夏の方がトマト風味を強く感じるが、どの時期に食べてもそのバランスは絶妙だ。
鹿の肉は、焼く前に見せてくれた。
ルビー色の固まりの美しさに目を見張る。
その後、一皿になって目の前に出た。食べる方も、今回は余裕がある。
肉質はすでに知っている。だから、味わう。かみしめる。
肉の柔らかさは変わらないけど、何かちょっと違う。
シェフに聞いてみると2回目だからソースを少し変えたらしい。
今回は、ジビエでは定番の「ねずの実」を使ったソースだそう。
このソースだと噛み締めた肉の後味に、野性の風味がほのかに感じられた。
前回は飲まなかった赤ワイン、やはり、料理にワインは必要だ。
肉の風味を一層強く引き立てる。
大きく切って、ステーキのような一切れを噛みながら目を瞑る。
言葉も無しにともかく味わう。今までイメージした鹿肉とはかけ離れた味だ。
デザートはフルーツグラタンだ。シェフ曰く、これも2回目だから、オレンジを使ったものを作ってみたとのこと。今回はバナナも入っているので食感も前回とかなり異なる。
2回、同じものを食べに行ったはずだった。
確かに同じ素材だし、同じ料理だった。
でも、何度思い出しても同じものを食べたと思えない。
これって危険な兆候だ。
3回目に鹿、食べに行ったらまた違う味で作ってくれるということ?
「多分、2月一杯は提供できると思う」とシェフは言う。
好奇心と食欲に負けてまた予約するのが先か、鹿肉のシーズンが終わるのが先か・・・。
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人を育てられるのは、人しかいない。最初からできる人など居ないから、プロの指摘を素直に聞けなければ成長なんてあり得ない。そんな時間の積み重ねが生むのは、新しいプロだけじゃあない。信頼関係だ。
育てる方も、育てられる方も、お互いが影響し合って、仲間になる。だからこそ一人でできないことも、できるようになる。
時給と有給の取りやすさだけで仕事を選ぶこと、間違っているとは思わないけど、その先に得られるものは何なんだろう。
貰った給与を消費した後に残るものは、何なんだろうか。
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