2020年4月3日金曜日

可哀そうなマッシュルーム

シェフの店のランチはいつもそこそこの人が入っていた。
日替わり目当ての人や、定番料理目当ての人など結構「お一人様」も多かった。

フレンチレストランにディナー一人で予約するのはとても敷居が高い。でも、ランチはそうでもない。お値段も敷居もかなり低くなっている。

シェフにとっても新規のお客様開拓のチャンスだった。だから、技術全開で料理を提供してくれた。これは、そんなランチを食べた時の感想。

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2019年2月12日
久しぶりにオランジュのカジュアルランチを食べに行った。
最近は鹿や鴨のディナーの誘惑が多かったから、すっかり忘れていた。
ここのカジュアルランチ、1000円程度なのにとても充実している。

パンかライスか選べるワンプレートランチには、メインに野菜サラダが付いている。
これには、自家製のドレッシングがかかっている。

いつだったか、好奇心で新しいレストランのランチを食べに行ったことがある。
出てきたワンプレートランチに付いていた野菜サラダ、食べるとキューピーの業務用サザンアイランドのドレッシングの味がした。ドライブインと同じ味だ。

シェフのカジュアルランチ、間違ってもそんなことは無い。食後のコーヒーか紅茶まで付いている。

ある知人はここのランチを食べた後「ああ、これで1日の楽しみが終わってしまった」とぼやいていた。まだ、夕食だってあるのに、と思ったが、たしかに自分で作る夕食は、逆立ちしたってこのランチより美味しくならないから、確かにその通りだ。

そんな美味しいカジュアルランチ、なんと日替わりは「ハンバーグのマッシュルームソースがけ」という食べたことのないものだった。もちろんそれを選んだ。

出てきて驚いた。
どうみたって、ブラウンマッシュルームだ。
ごろごろしている。

一口食べれば濃厚な味が口いっぱいに広がる。
トリフにも似たこの香りが移ったソースがたっぷりかかっている柔らかいハンバーグ、絶品だ。

このマッシュルーム、スーパーで5,6個入って売っている十勝マッシュに違いないと確信した。

十勝マッシュは、地元の醤油会社の子会社にあたる農業法人が作っている。
モノはいいけれど、マッシュルームだ。エノキやエリンギとは格が違う。
地元のスーパーの棚には、結構なお値段がついて冷蔵棚に陳列されている。
沢山使って料理したくても、ジャガイモのようにいくつも気軽に買える値段じゃない。

ただ、高くなる理由は良くわかる。マッシュルームだけでなく、キノコ類はたいてい長持ちしない。中でも、マッシュルームは傷が付いたらすぐに傷んでしまう。
人件費も燃料費も厳冬期の十勝で作っているんだから一袋100円で売れるわけがない。

だから時々、見切り品のところに値引きされた十勝マッシュのパックを見かけることがある。

傷み過ぎて、値引きの値すら無いような姿をさらしているのを見ると本当に悲しくなる。

美味しく食べる時期を逃したマッシュルーム、それすら見かけなくなるということは仕入しなくなった、ということだ。

地元で作っている美味しい食材だけど、都会でしか買えない。
日本全国の田舎で起こっている普通のことなのかもしれない。

店のマダムに帰りに聞いてみたら、やっぱり十勝マッシュだった。
マダムもスーパーで見切り品の十勝マッシュを見て何度も「可哀そう」と思ったそうな。

地元のレストランが地元の食材を定期的に、そして大量に使う料理を定番メニューにすれば、消費者だって地元食材の美味しさを知ることができる。

そうすれば、スーパーで朽ちて行く美味しい地元食材は減るのかもしれない。

そんな飲食店が増えれば、可哀そうなマッシュルームを見かけなくなるかもしれない。

「かもしれない」けど、そうなるといいな。

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彼の店は、生産者と直接取引もしていたようだ。この時は、型崩れしたマッシュルームを格安で仕入れたと話していた。

規格外となる野菜は、スーパーには並ばない。でも、その量は、生産する全体量の半分以上と言われている。でも、1個の値段が安くなれば生産者はやっていけない。

生産者が作ったものを高く売るには、加工が必要になる。技術が必要になる。
だから、全部が食べられる社会的仕組みを作るには、レストランや食堂は欠かせないだろう。

でも、同時にそれを支える消費者が必要になる。

ただ、目先の儲けだけを考えた今の社会に、そんな技術者も消費者も居ない。
でも、生産者の扱いが変わらなければ生産する人は消えて行く。

その先にあるものは、誰も生産しない社会だ。

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