2020年4月3日金曜日

グラタン?フルーツ?

技術を持っているシェフは沢山いると思う。でも、それを使って一皿に表現できるシェフはそんじゃあそこらにいる訳じゃああない。

どんな時も、美味しい料理を食べることはできる。でも、価値観が変わるような一皿に会った時、それを「コストパフォーマンス」だけで評価するなんて無意味じゃないだろうか。

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2019年2月17日
オランジュは、夜10時過ぎからバータイムをやっている。この時間帯、レストラン部分でのコースディナーは食べられないけど、「一杯飲みたい」時には立ち寄ることができる。
なので、結構遅くまで店が開いている。

もっとも、シェフは仕込みでいつも夜遅くまで店に居る。先日、確認したいことがあって、会社の忘年会後に立ち寄った。

その宴会は、デザートが出なかったから、ちょっぴり不満だった。

ちょうど気さくなマダムも居て話が弾んだ。
宴会の話の流れで「フルーツグラタン」という単語が出た。「グラタン」と「フルーツ」は、まったく味のイメージが付かない。

「あら、食べたことないの?」というとシェフが「3分でできるよ」とフォローする。
二人はあうんの呼吸で、私の好奇心を刺激する。

「いやあ、もう遅いし、シェフ疲れているだろうから」といったんは断った。
でもシェフは「さっきの宴会に出したばっかりだから、材料まだあるんだよね」なんて言われたら終わった。

理性は欲望に完全に負けた。

「では、頂きます」と言ったけど、まだ座れない。だって、グラタンだ。何を使っているのか物凄く興味がある。

「皿熱いからね」と言いながらバーナーで、グラタンらしい表面を焼いている。
その上にはソルベが乗っている。もちろんこれも、ここの手作りだ。熱さと冷たさのクリームハーモニー。見ているだけで食欲は暴走している。

「早く食べてね、溶けちゃうから」というけれど、すごく美しい。焦げ目の付いたとろっとしたクリームから、赤いイチゴがちらちら見えている。真ん中には、ソルベがドーンとある。下のクリームとの境目が少し解けて焦げ目に色を添えている。

一口すくって食べたのは、洋ナシだった。クリームの甘さがちょうどよい。
二口目は、ソルベとクリームとイチゴと一度に食べた。酸味と甘味のバランスが絶妙だ。
これはすごい。それに加えて熱さと冷たさ、クリームの舌ざわりの違い、を全部この一皿で楽しめる。

この後は記憶がない。

食べ終わる頃には、ソルベがどんどん溶けて、一部がクリームと一体した。これもまた残り少ないフルーツと食べるとちょっとまた違う味になる。

グラタンは冷まさないと食べられないけど、これは「冷まさないで食べるグラタン」だ。
シェフ曰く、グラタンとはフランス料理では「上から焼く」という意味があるそうな。

欲望には負けたけど、マカロニ以外で作るグラタンを味わった満足感は大きい。
たしかに、これはグラタンだ。

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シェフには、素敵なマダムが店をサポートしていた。
マダムは店を出す時「手伝わないよ」と言ったらしいが、マダムあっての店だった。
彼一人ではきっとできなかった。

料理には、必ず作る人がいる。映画も、音楽も、必ず作る人がいる。その周りに、その人達の情熱を支える人達がいる。

人生において、自分ひとりで出来ることは限られている。だから、他者と協力する術を学ぶ必要がある。そして、信頼関係を生むのは、自身の行動しかない。

価格だけ見て、消費する人間には理解できないかもしれないけど。

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