2020年4月5日日曜日

プロの仕事

夜遅く店の前を通る時、必ずと言っていいくらいシェフは店に居た。
彼が立っていたストーブの前のフローリングは、滑り止めとなる凸凹がすり減って消えていた。

過労死を肯定するつもりは全くない。でも、人生においての「仕事」とは生活費を稼ぐためだけにするのではない。
どの世界でもそうだけれど、プロが消える時、安心できる社会も消えてゆくような気がする。

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2019年3月10日
シェフは、毎日レストランで料理を作っているだけではない。
料理教室の講師や地域イベントへの参加、出張料理などいろいろな食に関する仕事が舞い込んでくる。

いつだったか、900食の弁当を作る仕事が来た時のこと。
詰めるのに半日はかかるだろう、という弁当屋の友人の意見を全否定し、かなり機嫌を損ねた。
でも、実際6時間程度で終わらせてしまった。「本当にできたのか」というので数えなおすのに40分かかったそうな。

何故そんな芸当ができるか、というと若い時のある修業時代、毎年弁当2000個作る職場にいたからだそう。「工場じゃないのにできるのか?」と聞いたら「広げるスペースと詰める人さえいればできる」と断言する。

シェフ達は本当にすごいと思う。

先日、地元のホテルでの大宴会に行くことがあった。集まった人数は約600人。
10人座れる円卓がいくつあったのだろうか。

3時間きっかりで、その全員に飲ませて、食べさせて、果物のデザートまで提供した。
提供された料理は、サラダやカルパッチョなど、5品程度だったと思う。あんかけやクリーム煮などは温かいままで食べることができた。

それが商売といえ、感心するしかない。それぞれの料理を作るタイミングやどのテーブルから運んで、どこまで料理が出し終わったのか、を確認しながらこの600人数分の料理を作り、時間内に提供するのだ。それも、複数種類のメニューで、だ。

作る料理の選択を間違ったら時間内には提供できないだろう。食材の見積も確保も、この人数に同じものを提供するとなるとかなり詳細に計画していないとできっこない。
加えて、それが企業なら予算内に収めて、利益を出す必要がある。

素人から見ると神業みたいに見える。でも、それが彼らの日常だ。
消費者が彼らの仕事と出会うのは、彼らの「結果」を出す時だけだが、その日のためにどれだけの準備をしているか。

ここのシェフもそうだが、みんなきちんと結果を出す。それがどんなに大変であっても言い訳しない。プロのシェフとして仕事をするのなら、そんなことは「やって当然」ということなのだろう。

振り返って、自分達の職場はどうだろう。

期限までに月次レポートが提出できないことを毎月、同じような言い訳をしている担当者がいる。「俺は寝ていないんだっ」とか言って、どれだけ自分が頑張っているかを周りにPRする。机の前で時間だけ過ごし「前例無し」で、書類を却下し責任回避することを毎日続け、給与のベースアップは主張する。
彼らが、世界的に有名な日本の「生産性の低さ」の原因であることは間違いない。

それより、こんな人達の仕事っぷりを、20代の人達は背中から見ているのだ。
日本の企業は本当に大丈夫なのか?

いろいろな仕事があり、難しさは様々だ。でも、仕事をし、対価や給与を得るための目的は一つしかない。
責任を果たし、結果を出すことだ。

「仕事をする」意味は、一人でやっても、チームでやっても「結果を出す」こと。そのために、それぞれの場所で、自分の役割の果たす。それがその人への「信用」に繋がってゆく。

それが、人生になる。そして、やがて、大きな仕事に、そして大きな信頼に繋がってゆく。

結果を出さなくても、給与がもらえる仕組みがあれば、何も決めない会議ばかりやって「仕事をしている」ふりをする人間がはびこるのは当然だ。

シェフ達の世界はシビアだけど、傍から見ていて心動かす「何か」がある。

彼らの労働環境もいろいろ問題はあるだろう。でも、この世界のプロ達は間違いなく「仕事」をしている。
そんな人達を支えるのは、消費者の私たちだ。

「どこで食べるか」を選ぶことは、目に見えない「何か」を支えること。ぐるなびで検索しても出てこないけどね。

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仕事を時給換算でしか判断しない労働者の考え方は、シェフもまた経営者として困っていた。それでも、法律の、時代の変化になんとか対応しようと頑張っていた。

先日、地元の有名なカフェの正社員求人を見た。年間休日日数73日。完全な労基法違反だ。田舎では、経営者としてこういう求人広告を平気で出す会社だって少なくない。

誰が悪い、という訳ではないけれど、プロとして結果を出すためには、個人の努力が不可欠だ。その努力する時間に給与が貰えなくても仕方がないだろう。

人生の選択は、本人次第だ。


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