シェフと話す時は、大抵食べ物の話しになる。それも味ではなく、その調理工程だ。
シェフは当たり前のように話すが、どれを聞いても気が遠くなるほど下ごしらえに時間がかかっていた。これは、そんな沢山聞いた話の一つ。
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2019年2月23日
子供の頃、正月の黒豆は真空パックから出てくるものだとずっと思っていた。
だから黒豆は「甘くて不味い」というの印象しか無かった。
でもある時、祖母みたいな親戚が丹波の黒豆を煮てくれた。
あの衝撃は忘れられない。食べた後、私は「これは何?」と尋ねた。
自分で煮る豆があれほど美味しいとは知らなかった。
それから豆を料理することも多くなるが、豆をどこから手に入れるかで味が全く違うことを学んだ。
また、豆の賞味期限が1年であることも身をもって理解した。
前年の売れ残りは、加工して真空パックに入っている。
そうでなければ丹波の黒豆の真空パックが300円で買えるわけがない。
子供の頃に食べた真空パック黒豆は、ただの黒豆だった。
一体どのくらい古い豆だったのだろうか。
で、花豆をもらった。昨年の秋に取れたものだ。それは間違いない。
甘い煮豆はすぐ飽きるし、いろいろ使いまわしができないし、何か美味しく食べる方法はないか、シェフに聞いた。
給水を2日、調理した後、3日冷蔵庫で寝かせて、とのこと。
豆を煮るだけで5日間だ。
私も豆を煮るが、正月の黒豆だって一晩寝かして煮る程度だ。5日かけて豆を煮るなど、聞いたことがない。
時短料理がもてはやされる今の時代、手間をいとわないシェフの調理法は間違いないとは思うけど、なにせ5日だ。でも、寝かせるだけだし、花豆を甘く煮る以外の食べ方への好奇心が湧いたので実験してみた。
給水をさせて1日目、鍋を開けてびっくりした。鍋一杯に入れたはずの水はすっかりなくなっていた。
もう一度、仕切り直して給水させてもう1日、大きさは倍になっている。
教えてもらった通り、チキンスープで煮て3日間冷蔵庫で寝かせた。
で、食べてみたら、豆の味しかしない。
母親に味見させたら「美味しいけど甘くない」と言う。
彼女には「花豆は甘い物」という固定観念がある。でも、味は気に入ったらしい。チキンスープで煮ているため、このままシチューでもサラダでも何にでも使えそうだ。
豆を甘く煮るのは、たぶん砂糖が高級品だった頃の名残なのであろうか。
黒豆も甘いけれど、豆はもっといろんな食べ方をされても良いと思う。
これもシェフが教えてくれたので、チキンと一緒に白ワインで煮た。
1日目より2日目が断然美味しかった。
フランス料理では、豆を塩で煮る料理もあるそうな。
沢山煮た花豆は「欲しい」というから母にも少し分けた。
どうやって食べたか聞いたら、なんと、ブレンダーで、粉砕しクリームシチューの素と混ぜてシチューを作ったらしい。
それじゃあ、シチュールーの味しかしないでしょうに・・・・ああ、なんと、もったいない。
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シェフにこの母の行動を話したら、苦笑いされた。
何事も控えめなのに、料理となると絶対譲らなかった彼の真面目な顔を思いだすことがほとんどだけど、彼と話していたことを思いだす時は、こんな苦笑いの顔が多い。
思い出は、未来に繋がるものではないかもしれないけど、思い出せる間はその人が生きているような気がする。
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