2020年4月2日木曜日

鳥肉いろいろ

この鴨は、本当に棚ぼただった。

このレストラン、コース料理は、値段だけが決まっていて、食材は好みを聞いて調理していた。もちろん、シェフは予約が入ればその時のベストの食材を準備していた。
でも、お客様に寄ってはお勧めしたものではなく、別のものを所望される時もある。
そうすると、準備していた素材は使わなくなる。

だから、他のお客様に回すことがあるが、この日、ラッキーなことに私の皿に回ってきた。

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2019年2月17日
友人とディナーに鹿を食べるために予約していた前日、相手からドタキャンの連絡。鹿のシーズンは終わりそうだし、どうしてもあの味をもう一度味わいたい。シェフに人数の予約変更を伝え、一人で食べに行くことにした。

オランジュのいいところは、本格フレンチレストランなのにカウンター席があることだ。二人席で「お一人様の食事」は敷居が高いが、ここは気兼ねなく「一人」でもフルコースを食べにくることができる。加えてその席は、シェフの解説付きだ。

夜遅いディナーだったが、他のお客様のコースがまだ終わっていなかった。鹿モードで店に入ったらシェフに「ちょっと話がある」と言われた。最初から「お肉のコース」を食べることは話していたので「今日は鴨にしない?」と聞かれた時は「えっ」と思った。

その鴨、お客様に出す予定だったけれど、その方は別のお肉を所望されたそう。「これ、前に話していた鴨?」と聞くと「そう」との回答。そりゃあ「それがいいです」と即答するしかない。

鴨はずっとジビエだと思っていた。冬になったら、薄く切って売られているものを好奇心で買って食べたこともある。固いしパサついてそれほど特別な肉には感じられなかった。スーパーで手に入るものと比べるのは失礼なのは十分わかっているが、鴨肉に対する私のイメージはそんな程度だった。

前回、そんなことをシェフに話したら「今度、シャラン鴨食べてみて」と言われた。
フランス産のシャラン鴨は「家禽」だとのこと。だから年中食べられるが、やはり冬がおいしいのでこの時期だけ仕入れているそう。

切り分ける前を見せてもらうと握りこぶし2つ分よりちょっと小さいくらいの固まりだ。部位は、胸肉だとのこと。これをどうやって一皿にするのか、まったくイメージがわかない。

で、前菜も終わっていよいよ鴨が出てきた。

薄くない。ステーキみたいな肉片だ。まず、その時点で頭の中にはてなマークが出た。「これが鴨?」鹿もそうだったが、ここで食事をすると自分の食材イメージをぶち壊される。

食べてみたら柔らかいけど弾力がある。鴨だと知らなければ「これは何の肉なのだろう」と思ってしまうほど、歯ごたえも風味もまろやかだ。皮の部分は甘くてパリパリしている。皮と肉の間の油を味わっている時「噛み応えが鶏肉に似ているなあ」と思ってはっとした。「鴨って、鳥だった」と。

このお肉、特別な方法で鳥を絞めるらしく量も流通もかなり少ないらしい。生産量もさることながら、肉の繊細さを知って美味しく調理できるシェフだって、コンビニ並みに居るわけじゃない。だから、少なくてちょうどいい。

食べる方だって「量」より「質」で満足できる方がいい。その方が、後々体重計の上で感じる後悔の量だって少なくて済むのだから。


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シェフのレストラン、常連さんが一人で食べにくることも少なくなかった。そういう人達は、彼の一皿を本当に味わって食べていた。

このレストランでは本物が味わえた。食材もシェフの技術も。

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