2020年4月1日水曜日

「こだわり」と「インスタント」

シェフの店のWEBページを作ってから、よく店に寄るようになった。
もっとも、ディナータイムの開店前、WEBの更新情報の確認だけだったけど。
でも、ディナーの予約が誰も居ない時は、コーヒーを飲みながらいろんな話をする時があった。それは、そんな時に出た話題の一つ。

===========
2019年1月26日
 シェフにテリーヌをどうやって作るのか聞いたことがある。物凄く手間がかかることを「そんなこと普通だ」みたいにして説明する内容を聞いて気が遠くなった。

何日もかけて準備してくれた一皿は、10分もかからずに食べてしまったけど、その味は3日ほど思い出しては、記憶を補強することになった。

もう死んでしまったけど、アメリカのある有名なレストランシェフが料理学校時代のことを書いたエッセイを読んだことがある。授業でブイヨンを作った時、インスタントのコンソメをこっそり足したら先生がすごく褒めてくれたそうな。それを読んで「人間の味覚なんてその程度だろうな」と思ったことがある。

たしかにここ数年のインスタントは、本当に優秀だと思う。プロの味を小さじ1杯で出してしまう。飲食店経営は、一番手っ取りばやく独立する方法でもあるから、修行しなくても店を持つことはできる。業務用調味料だって充実している。

私は、ほとんど外食しない。何故なら自分で作る方が絶対うまいから。新鮮な素材が安く手に入るこの土地なら、それほど手をかけなくてもたいていの食材はおいしい。
日々、そこそこにうまい物を食べていれば、外で金を払らって食事する機会には、食べてから後悔するようなものは食べたくない。1日に3回しか食べられないんだから。(体重計は、「それでも多いぞ」と現実を突きつけるが・・・)

タイやブラジルで何を食って育ったか判らない鳥をから揚げ用に処理したものなら、そりゃあ、安く売れるだろう。インスタントの調味料で下味はついているし、指定された通りにフライにすれば誰だって美味しいから揚げが作れる。

外食をする時「安さ」くて「うまい」を求めることは理解できる。でも、その「理由」を食べる前に考えて欲しい。そのから揚げは、どこからきているのか。何を食べて育ったのか。何を使っているから「おいしい」と感じられるのか。自分は「何故」美味しいと思っているのか。

グローバル化や、技術革新は、ITだけじゃない。食品添加物だって同じように進化している。でも、それを使った歴史はまた短い。食べ続けた結果がどうなるかなんて誰も判らない。手間をかける「こだわり」の一品が提供するのは、おいしさだけじゃない。

店から出る時、入ったことを後悔はしたくない。(体重計も激しく同意する。)外食する場所を選ぶことは、「値段」ではなく「体に入れるものを選ぶ」ことなのだから。

==========
彼の食材は、ほとんど地元の生産者から入手していた。もっとも、フランス産のフォアグラとか、彼の経験からだからこそ手に入る素材もあった。
ただ、どの素材の選び方もその処置の仕方も、美味しく食べてもらうため、どんな手間も惜しまなかった。皿の向こう側の人のことを考えて料理する人だった。

この土地の食材に惚れてこの地にレストランを開いて12年。生産者と消費者を繋げる活動も長年続けていたが、10年早すぎた。

私達は、ようやく彼の思想に追いつこうとしている。



0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。